今から300年以上も昔のこと、宮城に大国子(でーこくしー)という人が住んでいました。ある日、野良仕事の帰り、どこからともなくいい匂いが漂ってきました。不思議に思いあたりを見回すと、御宿井(うすくがー)で美しい女の人が長い髪を洗っていました。あんまり美しいのでしばらくみとれていましたが、やがて木の枝にかかっているきれいな衣に気づきました。大国子はこっそり近づきその衣を盗み、大急ぎで家へ持ち帰り、高倉に隠してしまいました。大国子が御宿井へ戻ると、女はしくしく泣いています。声をかけると「髪を洗っている間に着物がなくなってしまったのです。これでは家に帰れません」と泣きながら言いました。大国子が「それでは着物が見つかるまで私の着物を着ていなさい。私の家はすぐ近くだからそこで休んでいなさい」と誘いました。その後、二人は仲良く暮らし、やがて子供も生まれました。ある日、女は子供たちが歌っている子守唄を聞いて、羽衣が隠してある場所を知ります。羽衣を見つけて羽織ると、ふわっと空に舞い上がり、どんどん天高く遠ざかって行きました。それを見た子供たちや村人たちは「くまどぉー!くまどぉー!」(ここだよ、ここだよ)と叫びながら追いかけましたが、女の姿は与那原の久場塘(くばどう)で消えてしまったそうです。御宿井には、今でも女のジーファー(かんざし)が落ちていると伝えられています。